「おうし座の若い連星から噴き出すジェットを発見」
-すばる望遠鏡で捉えた生まれたての星の姿-
(9月21日改訂。記事・報道の解禁日時は「9月26日午前0時以降」でお願い致します。)
<概要>
神戸大学や国立天文台などの研究者らがすばる望遠鏡のコロナグラフ撮像装置を
用いて行った研究より、
おうし座にある若い連星からジェットが噴き出していることを発見しました。
星の約半数以上は連星として誕生します。誕生したばかりの若い星、特に単独星
には、ガスが噴き出す「ジェット」現象が見られます。
しかし、連星の周りの構造は複雑なので、その様相は明確でありません。
われわれは、おうし座XZ星の主星から噴き出すジェットを初めて発見しました。
この連星に対してはハッブル宇宙望遠鏡の観測から、伴星からジェットが出てい
ることがわかっていました。
この成果は、主星と伴星の両方が星周円盤を伴っていることを示唆しています。
従って、どちらの円盤からも惑星が誕生する可能性が考えられます。
<研究内容>
誕生から百万年程度の若い星には、「ジェット」を噴き出す姿が数多く見られます(注1)。
ジェットの存在は、原始惑星系円盤の存在を示唆しており、この円盤から地球や木星のような惑星が誕生すると考えられています。
しかし、中心の星が非常に明るいために、ジェットなどの構造を直接観測することは非常に難しいことでした。
近年になって、ハッブル宇宙望遠鏡やすばる望遠鏡を始めとする地上大型望遠鏡によって、単独星(注2)の周りに存在する構造の直接撮影が少しずつ増えてきています。
ところで、星の半分は太陽のような単独星、もう半分は連星(3重連星を含む)であり、単独星に比べて連星の星周構造は複雑です。
例えば、単独星の周りに存在する原始惑星系円盤は1つであるのに対して、連星系には2種類の原始惑星系円盤があります。
それらは、各々の中心星の赤道面に存在する星周円盤と呼ばれる原始惑星系円盤と、連星を覆うように存在する周連星円盤と呼ばれる円盤です。
連星系に存在する星周構造の直接撮像は大変珍しく、これまでに数例のみというのが現状です。
単独星と連星では、星や惑星の形成・進化にどのような違いがみられるのかということは明確ではありません。
神戸大学、国立天文台、名古屋大学、総合研究大学院大学などからなる研究チームは、
すばる望遠鏡用赤外線冷却コロナグラフ撮像装置と波面補償光学装置(注3)を用いて、
おうし座星形成領域にある多数の若い星を撮影するプロジェクトを進めています。
コロナグラフを用いて中心星の光を遮ることで、その周辺の暗い天体や構造を検出することができます。
また、地球大気による星像の乱れを補正する補償光学を組み合わせることで、0.1秒角以下という高解像度の観測を達成しています。
上記プロジェクトの一環として、連星であるおうし座XZ星(注4)を、近赤外線(波長1.6マイクロメートル)で観測し、
この主星から噴き出すジェットを撮影することに初めて成功しました(図1)。
なお、可視光線(波長0.68マイクロメートル)によるハッブル宇宙望遠鏡を用いた観測から、伴星から噴き出すジェットは見つかっていました(注5)。
可視光線や近赤外線の観測では、中心星からの光がジェットを構成している塵に反射している光を捉えることができます。
注目すべき点は、主星と伴星の両方からジェットが噴き出しているということです。
このような様子は、おうし座T星と呼ばれる若い連星でも観測されています。
ジェットの存在は、星の周りに原始惑星系円盤があることを示唆しています。
従って、このような連星系では、主星と伴星両方の周りに惑星が誕生するかもしれません。
今後、様々な連星の星周構造の直接撮影がより高解像度で行われることによって、
連星における星や惑星の形成・進化の起源に迫ることができると期待されます。
図1 上図は2005年11月に近赤外線(波長1.6マイクロメートル)で撮像したおうし座XZ星の星周構造です(注6)。
おうし座XZ星の北東側(左上)に光って見える構造がジェットです。
このジェットは、主星の位置から噴き出していることがわかりました(図中のピンク線)。
一方、過去に見つかっている伴星のジェットは図中の緑色線の方向にあります(注5)。
本研究グループの観測では、この方向にはジェットはほとんど見られません。
この理由は、
1)観測を行った時点では、伴星からはほとんどジェットが噴き出していなかったため
2)伴星のジェットは可視光線では見えるが、近赤外線では見えないため
のどちらかと考えられます。
中心の黒く塗られた円は、コロナグラフ撮像装置のマスクによって隠されている範囲です。
楕円内の正方形は、それぞれおうし座XZ星の主星と伴星の位置を表しています。
また、縦横に走る黒い帯は、すばる望遠鏡の副鏡を支える棒の位置です。
なお、この画像は擬似カラーを使用しています。
図2おうし座XZ星の主星と伴星から噴き出すジェットの想像図です(図のクレジットは国立天文台です)。
問い合わせ先
日置 智紀
神戸大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻
otopen at kobe-u.ac.jp
【注1】 上図は、太陽のような恒星の進化を表す模式図です。
星は分子雲(代表的なものに、「オリオン大星雲」や「おうし座星形成領域」)
と呼ばれる塵やガスが密集する所から、自らの重力収縮によって誕生します。
図中の@が誕生したばかりの星−原始星−です。原始星の年齢は十万年以下と考えられています。
原始星は大量の塵やガスに覆われているために、可視光線ではこの星を見ることはできません
(図中では原始星を半透明で示してあります)。また、これらの物質は中心の星へ降着しています。
図中のAは、年齢が百万年の星に相当する段階です。
これを「Tタウリ型星」と呼んでいます。
今回観測したおうし座XZ星もこの段階の連星であると考えられています。
原始星の段階で起こっていた物質降着によって、星の赤道面に沿って円盤(原始惑星系円盤)が形成されます。
この円盤から地球や木星のような惑星が誕生すると考えられています。
星の周囲に存在した塵やガスは、赤道面と垂直方向に噴き出すジェットによって散逸しています。
図中のBは、現在の太陽のように水素燃焼が始まっている段階です。
これを「主系列星」と呼んでいます。
原始惑星系円盤は消失しており、この段階の年齢は一億年以降であると考えられており、
太陽はあと五十億年程度、この主系列星の段階が続きます。
【注2】単独星とは、他の星と重力的に束縛されていない、太陽のように単独で存在する星のことです。
一方で連星とは、2つの星が両者の重心の周りを軌道運動している天体のことです。
【注3】左上図はコロナグラフの仕組みを表した模式図です(すばる望遠鏡ホームページより抜粋)。
コロナグラフ撮像装置は、円形のマスクで明るい星の光と回折光を遮ることによって、
その近傍にある暗い構造をシャープに撮像できる観測装置です。
波面補償光学装置とは、地球大気の揺らぎを瞬時に補正する観測装置です。
右上図は、波面補償光学装置の仕組みを表しています(すばる望遠鏡ホームページより抜粋)。
波面センサー(図中のA)、制御システム(図中のB)、そして可変形鏡(図中のC)のおかげで、
大気圏外に打ち上げられた望遠鏡(ハッブル宇宙望遠鏡など)に比べて解像力が劣るというデメリットを解消することができ、
0.1秒角以下という高解像度の観測を達成することができます。
【注4】おうし座XZ星の位置(図:株式会社アストロアーツのステラナビゲータを用いて作成
※おうし座XZ星(英語名はXZ Tauri)
・位置:赤経(J2000)=04時31分40秒,赤緯(J2000)=+18時13分57秒
・明るさ:14.6等(可視等級)
・地球からの距離:456光年
・質量:約0.4太陽質量(主星)、約0.3太陽質量(伴星)
・年齢:約100万年
・主星と伴星間の距離:約42天文単位(1天文単位は、太陽から地球までの平均距離1.5億キロメートル)
【注5】上図は、1999年2月にハッブル宇宙望遠鏡を用いて観測したおうし座XZ星です(先行研究論文より抜粋)。
観測波長は可視光線(波長0.68マイクロメートル)です。
図中の黒四角は、図1の大きさを表しています。
伴星から北東方向(図中の緑矢印)へジェットが噴き出しています。
このジェットと、周囲に存在するガスや塵との衝突によって、バブル状の構造が見えています。
一方で、主星から噴き出しているジェットは見えていません。この理由として、
1)この時点では、主星からはジェットが噴き出していない
2)この時点では、主星のジェットは長く成長していない
3)主星のジェットは、可視光線では見えず近赤外光線で見える
のいずれかと考えられます。
【注6】上図は図1と同図ですが、図中の説明は除いてあります。
中心の黒円、円内の四角形、そして縦横に走る帯は図1と同様です。